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鏡の女』  (短編集“鏡の女”第一話)
昭和62年2月 実業之日本社(ジョイ・ノベルズ) 刊行  浅見光彦シリーズ 第12作
ストーリー
主要登場人物
≪ストーリー≫
梅雨の中休みのような静かな日、光彦のところにダンボール箱に入った贈り物が届いた。
中を開けてみると白い鏡台だった。送り主は“大田区田園調布・・・・・文瀬夏子”となっているが心当たりがなかった。
一応、電話帳で調べてみたところ、その住所には文瀬という家が実在した。ただし、名前は文瀬聖一となっていた。
ダンボール箱の片付けに取り掛かった時、ふと妙なものに気が付いた。一度書いた宛先をボールペンで乱暴に消し、その上に新しい伝票を貼り光彦の元に送ったようだ。
下の宛先は“北区上中里三丁目○○番地・浅野静香”となっていた。光彦は文瀬夏子は知らないが浅野夏子なら知っている。小学校の同級生で初恋の相手である。

光彦は発送伝票に書いてある田園調布の住所に行ってみた。
近所の酒屋で文瀬家の事を聞いてみると先々代の時代から精神科の医者で東大出の男らしい。また、父親が経営する文瀬病院の副院長との事。
次に、鏡台を送った代理店に行ってみた。代理店の女性店員は夏子の事を覚えていて、夏子は一人で店の中に入ってきて発送手続きをした。また、外では外車に乗った男が夏子の様子をうかがいながら夏子の事を待っていたとの事。
光彦はようやく状況が飲み込めてきた。夏子はその男の目をかすめるようにしてあの鏡台を送ったのだ。
宅配便の店に着くまでは実家に送るということにしておいて急遽、光彦に送り先を変えたのは理由はともかく苦肉の策だったに違いない。なぜ、そんなふうにしてまで宛先を変えなければならなかったのだろう?

光彦は帰りがけに文瀬家の前を通った。厳しい鉄格子の門、ポーチの軒下には監視用のテレビカメラ。ああいう門塀に囲まれて暮らしている人は囚われびとのようだ。
光彦はふと夏子の置かれている状況を思いやった。

鏡台はその日のうちに戸棚にしまった。ただ、光彦は何かを見落としているような気がしてならなっかた。
あれから十日経ったある日、夏子の家に行ってみた。夏子の家は葬式のようだったので通りがかりの喪服の女性に聞いてみると夏子が死んだとの事。
光彦は所轄の東調布署に知り合いの橋本刑事課長を訪ねた。橋本の話しではノイローゼによる自殺だとの事だった。

光彦は鏡台を浅野家に送ろうと思い分解を始めた。支柱を取り付けてあった枠を台座から外すとサインペンの文字で“わくをした”と書かれてあった。普通なら“枠を下”とか“わくをしたに”とか書くだろうに?
光彦はふいに寒気に襲われた。小学校時代に遊んでいた光彦と夏子のあいだだけに通じあう暗号・・・・・そのルールに当てはめてみると“HELP”となる。夏子は助けを求めてきたのだ。
勃然と怒りが湧いてきた。自分自身に対する怒りと、それ以上に夏子を死に追いやった文瀬家の理不尽への怒りだ。
光彦は鏡台を浅野家に持って行った。そこで、夏子から姉・静香に届いた手紙を見せてもらった。そこには例の暗号文字があった。
光彦は静香に暗号の事を伝え、全ての手紙を見せてもらうことにした。暗号は“HELP”に始まって“KILL ME”“YUKI”“NURSE”と出てきた。
この単語から連想されるのは“助けて、殺される。ユキという看護婦”となるが・・・・・
静香が“ユキ”という看護婦を調べると言い出したが光彦は静香を思い止らせ自分が調べる事にした。

“ユキ”という看護婦は実在した。文瀬病院の精神科病棟に“鳥須友紀”という看護婦がいた。
しかし、名前が友紀というだけでは関係があるのかないのか分からない。接触しようにも内科なら仮病を使って可能であるが精神科ではどうする事も出来ない。
そこで、付き合いのある出版社の名前を使って文瀬聖一に取材を申し込んだ。話しの中で聖一は妻・夏子は不妊でノイローゼになったと言った。
光彦は静香に分かった事を報告しに行くようにしていた。

鳥須友紀のところに奇妙な宅配便が配達された。
文瀬聖一とはもう三週間も会っていない。昨日の夜の電話で今日の昼休みに会ってくれるかもしれないと言っていた。
そんな時、玄関のチャイムが鳴った。聖一かと思い玄関のドアを開けると宅配便だった。
送り主は“文瀬夏子”となっていた。しばらく恐ろしげに眺めていたが“香典返し”と思いダンボール箱を開けてみた。中から白い姫鏡台のキットが出てきた。組み立ててみると可愛い鏡台で机の上に飾ってもよさそうだった。
聖一から電話がありいつもの場所で待ち合わせてモーテルに向かった。束の間だが、充実した享楽の時間が流れた。
友紀は聖一に『素敵な香典返し、ありがとう』と言った。しかし、聖一には心当たりは無い。二人は色々話しをして送り主を友紀が調べる事になった。
友紀は宅配便の代理店に行き“文瀬夏子”と名乗った女性の事を聞いた。その時、代理店の店員が妙な事に気が付いた。
送り主の住所が“多摩霊園”の番地だったのだ。

友紀は、なかば放心状態で椅子の上にへたり込んだ。しかし不運な事に椅子もろとも倒れコンクリートの床に腰を打ち付けてしまった。
そして、下腹部に激痛を覚え、局部から熱い液体が溢れるのが分かった。友紀は病院に運ばれたがお腹の子は助からなかった。
友紀は聖一が励ましても反応がなく空間の一点をにらんだり、ときどき震えに襲われたり、ブツブツと意味不明なことをつぶやくばかりになった。
聖一はふと、友紀の右手に握られた紙片に気が付いた。どうにか紙片を取り出してみると宅配便の伝票で夏子の名前と文瀬家の墓地の住所になっていた。
聖一がいったん帰宅した間に友紀は病院の屋上から身を投げて死亡した。
聖一は浅野家に行き、友紀に鏡台が送られてきた事・鏡台の送り主が夏子で住所が墓地だった事を静香に怒鳴り散らした。
しかし、静香には何の事がさっぱり分からず、ましてや鏡台は浅野家にあり、それを見た聖一は幽霊を見たような顔になっていた。

夏子が死んで二ヶ月が経った。光彦は静香から聖一の“殴り込み”の話しを聞き、多摩霊園から友紀に送られた鏡台のことを知って以来、ますます幽霊が怖くなった。
光彦は独りで多摩霊園の夏子の墓を詣でた。真夏の昼下がり、強すぎる光の中を白いワンピースの女がパラソルをクルクル回しながら近づいてくるが、それこそ幽霊ではないかと思えた。
白い女が声を掛けてきた。一瞬、夏子が出たかと錯覚したが、女は小・中学校の同級生の里村弘美だった。
弘美は夏子の親友だった。彼女も夏子の墓に詣でていたのだった。

≪主要登場人物≫
・浅野静香
33歳
東京都北区上中里在住
家事手伝い
本作品のヒロイン的存在
文瀬夏子
33歳
東京都大田区田園調布在住
主婦
浅見光彦の小学校時代の同級生
浅野静香の妹
・文瀬聖一
東京都大田区田園調布在住
精神科医  文瀬病院 副院長
文瀬夏子
・鳥須友紀
29歳
東京都大田区在住
文瀬病院 看護師
・里村浩美
33歳
東京都北区在住
浅見光彦の小・中学校時代の同級生 文瀬夏子の小学校時代の同級生
・橋本
警視庁東調布署刑事課課長 警部

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